レーザアニールは、半導体製造プロセスにおいて使用される技術の一つです。近年、脱炭素社会の実現に向けてパワー半導体の注目が高まっており、その製造過程でレーザアニールが重要な役割を果たしています。本記事では、レーザアニールの特徴とメリット、及びパワー半導体の製造工程におけるレーザアニールプロセスを紹介します。
技術情報
レーザアニール
レーザアニールの特徴とメリット、パワー半導体におけるレーザアニールプロセスを紹介
目次
1. レーザアニールとは
2. 半導体の熱処理におけるレーザアニールの利点
3. パワー半導体製造工程に欠かせないレーザアニール
4. SiCパワー半導体の活躍が期待される業界
5. SiCパワー半導体のレーザアニールで使用される光源の種類
6. 製品紹介
7. まとめ
レーザアニールとは
レーザアニールとは
レーザアニールは、レーザ光を使ってウェハーの表面や特定の領域を局所的に加熱し、その後急速に冷却することで材料改質を行う熱プロセスであり、活性化、合金化、結晶化などを目的とし、半導体製造などの分野で採用されています。
半導体の熱処理におけるレーザアニールの利点
レーザアニールのメリット
レーザアニールは、ウェハーの表層のみを熱処理できることが可能であり、デバイス構造を破壊することがないというメリットがあります。また、採用するレーザ波長で侵入深さを制御することができ特定の場所のみを選択的に熱処理することも可能です。
半導体熱処理の種類
半導体の熱処理は大きく分けて3種類あります。
ヒータアニール
1度に複数枚のウェハを同時に熱処理する方法です。石英製の炉心管にウェーハを配置し、外側からヒータで加熱します。
フラッシュランプ式
赤外線を吸収しやすいシリコンの特性を生かし、赤外線フラッシュランプで照射することでウェーハを急速に加熱します。急速にウェーハを加熱するプロセスをRTA(Rapid Thermal Anneal)と呼びます。
レーザアニール
ウェハにレーザを照射することで加熱する方式です。表層のみを溶融し、再結晶することも出来る為、結晶性の改善などに用いられます。
パワー半導体製造工程に欠かせないレーザアニール
パワー半導体の製造においてレーザアニールプロセスは、Si-IGBTの裏面に注入された不純物の活性化、SiC-MOSFETの裏面電極のシリサイド化(合金化)のプロセスで広く使用されています。
どちらのプロセスにおいても、裏面(レーザ照射側)の温度 を約1000°Cまで上げる一方、回路が形成されている表面(非照射面)の温度は100°C以下に抑える必要があり、局所的な熱処理を得意とするレーザアニールプロセスが選ばれています。
SiCパワー半導体の活躍が期待される業界
近年脱炭素社会へのシフトや、エネルギー不足による再生可能エネルギーへの期待が高まる中、自動車、産業機器、鉄道車両、家電製品などの業界でSiCパワー半導体が期待されています。
自動車産業
自動車産業では脱炭素化に向けてEVの普及が急速に進められており、パワー半導体(Si-IGBT、SiC-MOSFET)への需要も高まっております。特にSiCに関しては、バンドギャップが広く高耐圧性や熱伝導率に優れた特徴を持っており、一層注目が集まっています。SiCパワー半導体が重要視される主な理由は以下です。
■ 高温動作性能
EVの急速充電では、大電流を扱うため、発熱が大きくなります。SiCパワー半導体は熱伝導率に優れており高温に強いため、周辺の冷却機構の簡素化を図る事が出来ます。
■ 高電圧耐性
SiCはSiに比べて高い耐電圧を持っている為、高電圧で動作するEVの駆動系統で使用することが可能となり、急速充電への需要が高まる近年においては、最も注目されている特性の一つです。
■ 高効率の電力変換
SiCパワー半導体は従来のSiパワー半導体よりも低い電力損失で高効率な電力変換が可能な為、急速充電時において効率的に電力を供給することができます。またバッテリからの電力をより効率的にモータに供給し、より長い走行距離や高い性能を実現することができます。
産業機器
産業機器では脱炭素社会へのシフトや、エネルギー不足による再生可能エネルギーへの期待が高まる中、省エネ化、高効率化に向けたインバータ技術の向上が求められています。
インバータの省エネ性能と効率を上げるために、最先端のパワー半導体が必要であり、現在これまで主流として用いられてきたSiパワー半導体からSiCパワー半導体への置き換えが加速しています。
SiCパワー半導体を用いることでインバータの電力変換効率が高まり、その結果産業機器の消費電力が削減され、省エネ化が実現します。
鉄道車両産業
大容量のパワーエレクトロニクスが用いられる鉄道車両は、発車、停車を繰り返すため多くの電力が使われます。
従来のSiパワー半導体を使った車両では、高速域では発電量が大き過ぎ、パワー半導体がその負担に耐えられないため、機械的なブレーキでエネルギーを熱として捨てて減速していました。
しかし、SiCパワー半導体は近年損失低減や電力回生率の大幅向上による消費電力量減の実現化ができき、発熱の低減による冷却機構のスリム化などで、従来製品よりも体積(サイズ)と質量の削減ができる為、注目が集まっています。
家電製品(エアコン、テレビ、冷蔵庫、パソコン、スマートフォン)
SiCはSiと比べ、電力損失を大幅に低減することができ、高温動作が可能、高速スイッチング動作、放熱性が高いといった特性から、テレビ、エアコン、冷蔵庫、パソコン、スマートフォンなどの家電製品でもSiCパワー半導体の導入が進んでいます。
また、高電圧耐性と高速スイッチング動作の特性から、電力変換効率が重要な電子レンジやインダクションヒーターなどの製品にも有効です。
SiCパワー半導体のレーザアニールで使用される光源の種類
レーザアニールプロセスでは、主にUVレーザとグリーンレーザが利用されます。これらのレーザ光源は、活性化、合金化、結晶化などの目的で用いられますが、波長の違いによりその効果や適用範囲に違いがあります。
UVレーザ
UVレーザは、短波長なので吸収深さが短く、主に合金化、結晶化など、ワーク極表面層を狙った熱処理プロセスに使用されます。
特徴
UVレーザの波長は、レーザ発振器の種類によって異なります。
■ 第三高調波 YAGレーザ
波長: 355nm
YAGレーザは、非常に一般的なレーザ光源で、その第三高調波の波長は紫外領域の355nmに位置します。
■ エキシマレーザ
エキシマレーザの波長には以下のものがあります。
アルゴンフッ素 (ArF) レーザ: 波長 193nm
クリプトンフッ素 (KrF) レーザ: 波長 248nm
キセノン・塩素 (XeCl) レーザ: 波長 308nm
キセノン・フッ素(XeF) レーザ: 波長 351nm
エキシマレーザは、その短波長で高いエネルギを提供し、アニール、結晶化やリソグラフィなどの極表面の熱処理や加工に使用されます。
波長
■ 表層面への吸収
SiCは、UV領域の波長に対し高い吸収率を示すため、表面近くでの効率的なエネルギ吸収が可能であり、ウェーハ表面での局所的な熱処理が行えます。
■ 裏面への熱影響の最小化
短波長により、照射部分の周囲への熱拡散が少なく、熱影響ゾーンを最小限に抑えることができます。
グリーンレーザ
グリーンレーザは、Siウェハの裏面に注入された不純物の活性化や、a-Siの結晶化に使用されます。UVレーザよりも波長が長いため、深い層までを狙った熱処理に適しています。
特徴
■ 第二高調波 YAGレーザ
波長: 532nm
YAGレーザの基本波長は1064nmで出力されますが、波長変換の光学素子を使用することで、半分の波長(532nm)である第二高調波のグリーンレーザを生成することができます。
波長
■ 適度な浸透深度と均一な加熱
UVレーザよりも波長が長いため、ワークの表面から一定の深さまで均一に加熱することができ、材料全体の特性を均一に改善するのに有効です。
■ 熱影響の適切な管理
UVレーザよりも高出力のエネルギを得やすく、より短時間での処理が可能です。
製品紹介
住友重機械工業は、パワーデバイスが低炭素社会実現のキーデバイスとし注目されるより前、レーザによるアニールプロセスに着目し開発をしてきました。2004年に初号機を納入して以来、150台を超えるレーザアニール装置を全世界に納め、各デバイスメーカー様の生産を支えています。当社は、今後も継続して高性能なレーザアニール装置を供給し続けていく事により、成長が期待される市場の発展及び脱炭素化社会の実現に貢献していきます。
SWA “Green/Hybrid” Laser series
SWA “Green/Hybrid” Laser series
深い活性化とダブルパルスプロセスにも対応した、高性能レーザアニール装置
適用例 - IGBT裏面活性化
独自のダブルパルスプロセスを可能にした固体レーザと長波長レーザを搭載したハイブリットアニール装置です。 固体レーザの特徴である、高繰り返し高パルスエネルギ安定性、メンテナンスフリー、コンパクト設計を備え、半導体分野の次世代プロセスの開発を促進します。
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SWA “UV” Laser series
SWA “UV” Laser series
次世代パワーデバイス用レーザアニール装置
適用例 - SiCオーミック・コンタクト生成、活性化など
非照射面の温度上昇を抑えつつ、メタル-SiC界面を高温に加熱し、OPTSWING※(独自の高速スキャン方式)でオーミック・コンタクトの生成を実現します。
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SWA “UV” Laser series for R&D
SWA “UV” Laser series for R&D
豊富な量産実績を持つSWA-20USの光学系を採用した汎用性の高いマニュアル機
適用例 - SiCオーミック・コンタクト生成、活性化など
開発、少量産に適したマニュアル機。
UVレーザ+OPTSWING(高速スキャン)+プロセスチャンバ搭載で高品質なプロセスを実現します。
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まとめ
いかがでしたでしょうか。レーザアニールは、半導体製造プロセスにおいて使用される技術の一つで、近年脱炭素化社会に向けた半導体製造にとって必要不可欠なプロセスです。レーザアニールに関するご質問、または導入を検討される際は、お気軽にお問い合わせ下さい。